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消費しない20代が日本を滅ぼす!?

上田 今回のテーマは「ミニマムライフ」です。これは最近の若者の生活様式を表す言葉で、平たく言えば「最少限度の生活」という意味ですね。最近、大企業で高収入にもかかわらず、「車は要らない、お酒も飲まない」という人が増えているそうです。いったい、何故ですか?

竹中 実はこの言葉、「昨年、新聞社が提唱したトレンドウオッチに関わるキーワードの中で、最も影響力があった」と言われています。今の20代を語る言葉として、最も適していますね。
 以前、「シンプルライフ」という言葉が流行ったことがありましたが、これは「生活の質をもっと簡素化しよう」という意味でした。それに対して、ミニマムライフは「生活にかかるお金と時間の量を節約しよう」というもっと現実的で強い意味を持っています。

上田 確かに堅実に貯蓄をしたりして、「必要最低限の生活」を好んでいる若者が多くなった気がします。たとえば、「貯金が1300万円もあるのに、築年数が古いアパートに住んで、一日に使うおカネが昼食代のわずか500円程度」などという若者の話を、よく聞いたりしますよね。

■とにかく楽が一番で傷つきたくない!? 「縮み思考」のミニマムライフ世代
竹中 こういう若者が、今後日本経済をどのように変えていくかということについては、経済学者として大変興味があります。彼らの多くは、子供の頃から「きちんと貯金しなさい」と親に言われて育っているため、消費に消極的だからです。

上田 なるほど。それではこの「ミニマムライフ世代」、いったいどんな特徴があるんでしょうか。ミニマムライフ世代とは、1980年から88年生まれの20代を指しており、現在の日本にはこの世代が約1150万人います。全員がそうではありませんが、その上の世代と比べて全般的にミニマムライフ的な価値観を共有しています。言い換えれば「縮み思考の世代」、英語なら「シュリンク世代」ですね。

 彼らの価値観は「楽が一番」「傷つくのが嫌い」というもの。その一方で、「人生に手ごたえが欲しい」という相反する感情も持っています。無気力な世代ではないですが、こういう思考は、まさに彼らが生きてきた時代背景に強く影響されているようです。

上田 たとえば、28歳の若者の人生と、日本経済の代名詞である「日経平均株価」の推移を重ねて見ると、興味深い相関が見て取れます。まず、彼らが小学校低学年の時に「バブル崩壊」が起きました。それ以降は、「失われた10年」の間に思春期を送っています。しかもその間、ずっと「就職氷河期」でもありました。

 思春期を送った時代の世相の影響も大きいですね。中学3年生のときに「阪神・淡路大震災」や「オウム真理教事件」(いずれも1995年)、そして大学3年生のときには「米国同時多発テロ」(2001年)など、不安にさいなまれる事件や天災が続発しています。こういう経済事情や世相の変化が大きく影響して、「何が起きてもいいように備えよう」という危機感が強いのではないかと思われます。

竹中 そうですね。彼らの思考形成には、確かに時代背景が大きく関わっていることは間違いありません。

■日本経済を担う20代が消費に消極的! 高齢者よりも強い「危機意識」
上田 ちなみに20代を対象に行なった内閣府の生活意識調査では象徴的な結果が出ました。「将来に備えたい」と回答した人の割合が、今年とバブル期の1989年を比較すると、なんと13%以上も増えている。それにしても、20代の若者が将来を心配するには、少し早すぎる気もしますが・・・。

竹中 ミニマムライフ世代の思考は、私たち団塊世代と比べると「コインの裏側」のようなものです。団塊世代は、リタイアして「これから人生を楽しもう」という人たち。今までおカネを貯めて来たけど、老後は一生懸命夫婦で使おうという意識が旺盛です。

しかし、若者は違います。「とにかく将来に備えなくてはいけない」という不安が強い。年金問題もそうですが、将来の日本の重荷を負担する側としてのプレッシャーを抱え込んでいるような側面もあります。

上田 なるほど。しかし、今後はこのミニマムライフ世代が社会の中枢を担っていくわけですよね。やはり日本経済に与える影響はかなり大きい気がします。

竹中 よい例が、「自動車の販売台数」です。ここ数年間で、新車、中古車とも目に見えて販売数が落ちて来ています。それに伴い、自動車雑誌も売れなくなりました。これは人口減少や都心回帰の影響もありますが、ミニマム世代の消費動向も少なからず反映されているはずです。

 自動車だけでなく、消費者がお酒を買えば行政の収入になる「酒税」も、この5年間で2割近く、15%も減少しています。もちろん、発泡酒などの税金が安いお酒の需要が増えている影響もありますが、やはりミニマムライフ世代の影響は無視できないでしょう。

上田 確かにすごい消費の落ち込み方ですね。

竹中 それに加えて、最もわかりやすいのが「消費性向」、つまり所得が100あれば、それをどれだけ使っているかという目安になる指標です。男性を見ると、1970年前後は所得の9割を消費に回していましたが、現在は7割強しか使っていません。女性のトレンドは男性と少し違いますが、やはりバブル以降は下降トレンドにあります。

■成功体験を積んで前向きに! ボランティアも重要な人生経験
上田 燃料高の影響もあったとはいえ、今年はお盆の海外旅行客も少なかったようですね。こういう若者がプラス思考に転じて、景気を盛り上げてくれる可能性はないんでしょうか?

竹中 そこで私が声を大にして言いたいことは、こういったミニマム世代の若者に「サクセスストーリーをぜひとも経験してもらいたい」ということです。

上田 サクセスストーリーとは、どういうことですか?

竹中 先ほど言ったように、この世代が小学生のときにバブルが崩壊して、大学の就職活動の時期には超就職氷河期でした。本当に「受難の世代」であったことは事実です。そのため、将来に対するリスクを過大に見積もる傾向がある。これは特に主観的なリスクなので、消費を抑えて将来に備えて貯蓄しようという動きが出てきます。

 でも、イケイケドンドンとは行かないまでも、やはりいくつかの成功体験を積み重ねて行くうちに、「自分はもっと行けるはずだ」「自分はもっと色々なことができるはずだ」という気持ちになれるはず。そうなると、消費に対して前向きな思考が出て来ます。ミニマム世代の人たちは、これまでの人生でそういう経験がなかったんですね。

 対照的なのが団塊世代です。仕事をやればやるほど給料も上がったし、競争は大変だったけど、それなりのリターンもあった。サクセスストーリーが豊富だったんですね。だから、今のおじさんやおばさんを見ると、若者と比べてすごく元気です。そういった意味でも、若者に色々なサクセスストーリーを経験して欲しい。

 その経験の場はやはり企業の職場です。企業も重要な仕事に若者をどんどん登用して行くべきだし、その中で前向きな思考を持った若いリーダーがどんどん出てくればよいと思います。

上田 なるほど。彼らは、おカネを稼いだり使うことによって得られる喜びを、まだそれほど経験していないんでしょうね。そんな彼らに対して、僕があえて提言させてもらうとすれば、「世の中のためにおカネを使え」ということでしょうか。

 ミニマムライフ世代は、人生に手ごたえを求めている世代でもあり、ボランティアなどに非常に興味を持っています。お酒を飲んだり車を買ったりしなくても、意義や目的のあることにはおカネを使う傾向があります。

 そういうところに意義を見出せるなら、直接的な消費でなくても構わないんじゃないか。たとえば、子供の将来や地球環境のためにおカネを使ってもらうのも、立派な消費です。それは、巡り巡って自分の将来の「備え」になる場合も多いと思います。

竹中 そう。たとえば、仕事に限らず、ボランティアでサクセスストーリーを経験してもらってもよいわけです。そして、新しい考え方のステップに進んでもらう。人生には、お金を稼ぐ面と使う面が両方あります。今後はその「稼ぐ面」において、この世代の動向を見守りたいですね。

上田 そうですね。ミニマムライフ世代の「可能性」に期待しましょう!



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