SSブログ

最新技術を生む開発の現場#1--燃料電池車のデファクト・スタンダードを創る(本田技研工業/ FCX Clarity) マイナビ転職編集部 2008/06/11 15:00


石油や天然ガスなどの資源の枯渇、CO2排出による地球規模の温暖化など、今地球は、幾多の深刻な問題を抱えている。こうした中、地球環境にやさしいプロダクトとして注目を集めているのが、ハイブリッド車や燃料電池車といったエコカーだ。なかでも、ほぼ無尽蔵の資源である水素を燃料とし、CO2を全く排出しない燃料電池車は究極のクリーンカーとして、世界中から熱い視線を注がれている。その燃料電池車の開発の急先鋒を担うHondaが、満を持して発表した次世代燃料電池車。それが『FCX Clarity』である。


◆性能、デザイン両面で課題山積みの燃料電池車の開発

水素と酸素を反応させて電気を生み出し、排出するのは水のみという究極のクリーンカー、燃料電池車。しかし、その開発にはまだまだ課題が多いのも事実だ。製造コストの高さ、製造プロセスの複雑さ、心臓部である燃料電池システムが巨大であるがための車両デザインの不自由さなど、燃料電池車が一般に普及していくためには、乗り越えなければならない壁が多々ある。こうした課題を乗り越え、100年後の未来の車の原型となる魅力的な燃料電池車を作ること。これが『FCX Clarity』開発のねらいだった。この『FCX Clarity』の心臓部とも言えるパワートレイン開発の陣頭指揮を執ったのが、同社の主任研究員である木村顕一郎さんだ。


◆燃料電池の常識を打ち破った「V Flow FCスタック」

最初に燃料電池の基本的な仕組みについておさらいをしておこう。燃料電池は、水素と酸素から電気を取り出す電解質膜を、プラスとマイナスの電極で挟み込んだ「セル」と呼ばれる構造物で成り立っている。分かりやすく言えば、平たい乾電池のようなものだ。ここに水素と酸素を送り込んで反応させ、電極を通して電気を集めるわけだ。

1つのセルの電圧は概ね1ボルト程度。車を走らせるためには、当然もっと大きな電圧が必要だ。そこで、このセルを数百枚重ね合わせ(スタッキング)、電圧を稼ぐ。これを燃料電池スタックと呼ぶ。従来の燃料電池車では、このスタックの容積が大きくなってしまい、燃料電池システムが巨大化していた。結果として、車両デザインの自由度も著しく低下し、エンドユーザーにとっては今一つ魅力のない車体になってしまっていた。Honda開発陣が目を付けたのは、まずこのスタックの小型化だった。

「きっかけは、メンバーの1人の『スタックを縦置きにして、センターコンソール(運転席と助手席の間)におけないか?』という言葉でした。ただ、従来のスタックをそのまま縦にしても、とてもそのスペースには収まらない。そこで、発電能力を高めつつ、スタックを大幅に小型化する新しい構造にチャレンジしたのです」(木村さん)

これまで、Hondaは毎年のように燃料電池車の改良を重ね、その技術を発表して来た。2005年に発表されたモデル『05M FCX』は、運転席の下に横型の燃料電池システムを搭載する設計だった。どのような技術領域であっても、新技術の開発は一夜にしてなるものではない。これまでに積み重ねてきた膨大な技術的成果とノウハウを組み合わせ、少しずつ改良を重ねていくのが通常のやり方だ。縦置きのスタックという方式は、ある意味ではこれまでの技術的蓄積を捨てるようなものだった。

「『FCX Clarity』の開発メンバーに加わった時、『とにかく今までにない未来の車を作れ!』という社命を受けました。だから、これまでの技術の延長線上で開発を進めるのではなく、ひと目で未来を感じるデザインと理想的なパッケージングを求めて一から作ってみたのです。一見無茶なアイデアでも、まずはやってみること。そして、得られた結果をすばやく分析しフィードバックすること。この現物主義とスピードこそが、Hondaのモノづくりの伝統なのです」(木村さん)

スタックを縦置きにすることにより、新たなメリットも生まれた。燃料電池は発電と共に水を生成する。この水がスタックの発電面に付着すると、燃料の供給が妨げられ、発電効率が著しく下がる。つまり、生成された水をいかに発電面の外側に逃がすかが、安定的な発電のカギとなるわけだ。スタックの流路を縦にすると、生成された水は重力に従って速やかに下流に流れ、排出される。これによって従来以上に安定した発電性能が実現された。さらに、生成水の流れが良くなったことになり、水を排出するための流路の深さも17%削減。結果、セルの薄型化が可能となり、スタックの画期的な小型化が可能となった。


◆最高出力100KW。高出力と小型化を同時に成立させた、新開発の駆動モーター
小型化されたのは燃料電池システムだけではない。従来、Hondaの燃料電池車では、駆動系システムは、駆動モータ・ギアボックスとPDU(パワードライブユニット)という2つのモジュールで構成されており、2つのモジュールを合わせると大きな容積を必要とした。『FCX Clarity』では、これらのモジュールを1つのユニットに集約。さらに、モーターのローターシャフトとドライブシャフトを同軸化し、画期的な小型化を実現している。同軸化とモジュール集約の結果、駆動系システムの容積は飛躍的に小さくなり、前後長は162mm、高さは240mmも小型化することができた。

「同軸駆動モーターの小型化は非常に苦労しましたね。コンパクト化と同時に高い出力を実現しなければならなかったのです。出力を高めるために、モーター内部の永久磁石を、できるだけ外周よりに配置したのですが、高速回転させた時に遠心力でヨーク(電磁鋼板)が壊れてしまう。限られたスペースの中で、永久磁石とヨークの最適な位置を調整するために、何度もシミュレーションモデルを作り直して検証を重ねました」(木村さん)

駆動モーターの最終形が完成するまでに検討したモデルの数は数百にも及ぶという。その結果をもとに試作した現物で改良を行い、小型ながら100kW の高出力を達成、『FCX Clarity』のダイレクトでどこまでも伸びていく走りを実現した。ここにも、「新たなアイデアにチャレンジし、現物で証明する。そして、その結果をフィードバックし、理想の形を見つけ出す」という、Hondaならではのモノづくりの哲学が表れていると言えるだろう。


◆74%部品点数削減した、新型高圧水素タンク

燃料電池車に不可欠なモジュールであり、かつスペースを取るものがもう1つある。燃料を積む高圧水素タンクだ。従来のホンダの燃料電池車は水素タンクを2本搭載していた。開発陣はここにも目を付けた。『FCX Clarity』では、この水素タンクを1本にすることにより、小型化とタンク容量の増大を実現。同時に、高圧水素タンクを構成する部品を74%削減した。実は、この部品点数の削減にこそ、真のねらいがある。

「従来の2本型タンクでは、レギュレーターやバルブ、センサーなどの部品がバラバラに配置されていたために、部品点数が非常に多くなってしまっていた。部品点数が多いということは、製造工程が複雑になる上に、コストもかかる。燃料電池車を普及させていくためには、構造も製造プロセスもできるだけシンプルにして、コストを下げて行かなければならない。これがタンクを一本化したもうひとつのねらいだったのです」(木村さん)


◆モノは正直。だからモノづくりは面白い

独創的な技術により、燃料電池車の未来の姿を世に提示した『FCX Clarity』。同社の燃料電池車開発は、今後どのような方向に向かうのだろうか?

「『FCX Clarity』のパワートレインの開発のキーワードは、“もっとシンプルに、よりコンパクトに”でした。これは、エンジニア側の言葉に置き換えれば、 “集約化”、そして“製造プロセスを簡単にすること”ですね。燃料電池車は、現在ではまだまだ製造コストが高く、量販レベルまでには至っていません。もちろん、『FCX Clarity』もまだマスプロダクト展開する手前の車ではありますが、小型化、部品点数削減、製造工程のシンプル化などの面で、飛躍的に進化しコストも低減しました。また、燃料電池車が性能面だけではなく、デザインの面でもエンドユーザーにロマンを感じさせる車になりうることを提示できたと思います。この『FCX Clarity』をきっかけに、燃料電池車業界全体が盛り上がってくれれば、技術者としてこれほどうれしいことはないですね」(木村さん)

『FCX Clarity』は、性能、画期的なデザインなどが評価され、「INDY JAPAN」(2008 IRL インディカー・シリーズ第3戦 ブリヂストン インディジャパン 300マイル)のオフィシャルカーとして認定された。最後に、モノづくりの集大成とも言うべき自動車開発に従事する木村さんに、この仕事ならではの面白さを伺った。

「モノづくりは、常にトライ・アンド・エラーの繰り返しです。設計者は、高い目標を立て、これを実現するアイデアに果敢にチャレンジして、まずは実際に作ってみる。そして得られた結果を理論的に検証して、新たな仮説を立て、そこから新しい設計を起こしてまた作る。そのプロセスをスピーディーに繰り返すことによって、設計、シミュレーション、製作、テストのすべての技術がレベルアップしていきます。そして、その成果は、現実のモノとして、確実に目の前に現れてくる。そこがモノづくりの醍醐味でしょうね。特に燃料電池車の開発は最先端の技術ですから、どこにもお手本がない。基礎研究と開発を同時並行で進めるようなものです。だから毎日がチャレンジ。そういう環境で自分を試してみたいと思う人には、とてもエキサイティングな仕事だと思いますよ」(木村さん)

URL:http://japan.cnet.com/workstyle/special/story/0,3800083108,20376674,00.htm
nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
「田母神俊雄」論文|- ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。