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テレビと新聞の“ウェブ対応度”に見る日米の絶望的な格差


 日本でジャーナリストと言われている人々とインターネットの話をすると、「インターネットにはくだらない情報ばかりが溢れている。われわれは、そうした情報ではなく、正しい情報を流す義務を負っている」という反応が返ってくる。

 つまり、彼らは、インターネットで流れている情報は、一般市民が発する草の根報道だけだと思っているのだ。確かに、10年前にはそうだったかもしれない。そして、いまもそうしたものが膨大な量で存在しているのは事実だ。

 しかし、いまや新聞もテレビも、インターネットを通じて閲覧・視聴できるようになってきた。つまり、「マスメディアは、ウェブの中に取り込まれようとしている」のだ。したがって、ウェブの情報には、ブログ、ウィキペディア、YouTube、あるいはBBS(電子掲示板)に代表される「草の根的発信」と、新聞、テレビなどのマスメディアの両方が存在していることになる。

 ところが、日本では、新聞もテレビもウェブへのコンテンツ公開は限定的だ。だから、「ウェブへの移行」ということが、あまり実感できない。それだからこそ、日本のジャーナリストは、「インターネットは草の根メディア」と思っている。しかし、アメリカではすでに大きな変化が生じている。これは、この数年間に起こった大きな変化と言えるだろう。

 ニューヨーク・タイムズについては、この連載でかなり詳しく述べてきた。その当日の、あるいは最近時点のニュースについては、他の新聞でもほぼ同じようにウェブから記事を無料で読むことができる(というより、そもそもは他紙がウェブ公開を進める中で、ニューヨーク・タイムズとウォール・ストリート・ジャーナルが有料制にこだわっていた)。また、豊富な写真やビデオがある。

 過去記事については、どうであろうか? いくつかの主要紙についての状況は、つぎのとおりである(9月4日現在)。

「ワシントンポスト」。過去記事が検索できる。過去2ヵ月の記事は、無料で閲覧できる。それ以前の記事は「archive search」を用いれば、1877年からの記事を検索できる(ただし、検索にはかなり時間がかかる)。

「ボストングローブ」。過去記事が検索できる。過去数ヵ月から数年の記事が無料で閲覧できる(場合によって範囲が異なるようである)。アーカイブには、1872年からの記事がある。1979年以降のデータは電子化されていて検索可能。記事の最初は読めるが、記事そのものの閲覧は、本紙購読者以外は有料になっている。

IT関連のニュースなら、「San Jose Mercury News」がよい。過去数ヵ月の記事が検索で閲覧できる。過去記事のアーカイブでは、1985年からの記事の検索可能。ただし、閲覧は有料。

 無料で読める範囲についての見当をつけるために、「hiroshima」というキーワードで検索してみた。ワシントンポストでは、17件がヒットし、最も古い記事は2008年7月だ。ボストングローブで site searchすると6件がヒットし、最も古いのは2005年8月だ。これに対して、ニューヨーク・タイムズでは2万9100件がヒットする。最も古いのは、1981年1月だ(ただし、86年ごろまでの記事は、無料のものと有料のものが混じっている)。この結果からみると、過去記事の閲覧に関しては、ニューヨーク・タイムズが断然優れていると言えよう。

◆テレビも ウェブで見られる
 テレビも、インターネットを経由して見ることができる。これについては、オリンピック報道に関連して、この連載の第38回で述べた。そこで紹介したNBCは、オリンピック以外でも優れている。

 MSNBCは、NBCとマイクロソフトが共同で1996年に設立したニュース配信専門局だ。ウェブ配信を重視しており、実際に優れた内容の動画を提供している(マイクロソフトは、これによって、YouTubeを買収したGoogleに対抗する戦略らしい)。「video」のページを開くと、100個程度のニュースビデオが提供されている(最初にコマーシャルが流れるのを我慢する必要がある)。フルスクリーンにすれば、実際にテレビを見ているのとほとんど変わりがない。

 第38回で紹介したブライアン・ウイリアムズの「Nightly News」は、いま3大ネットワークのなかで最も人気があるニュース番組だが、これも「video」の中にある。どのような観点からニュースを放映しているかをみるだけでも面白い。

 オリンピックに関してはNBCが独占放映権を持っていたので、他のテレビ局は精彩を欠いていた。しかし、一般のニュースでは、その他のテレビ局もけっして劣っていない。とくに、ニュースに関しては、CNNが優れている。「video」のセクションを開くと、常時100個くらいのビデオニュースが用意されている。これをクリックするだけで、最新ニュースの映像に接することができる(ニュースの途中でコマーシャルが流れるが、それほど長くないので我慢しよう)。政治、経済、スポーツなどの分野ごとの検索も可能なので、関心のあるニュースを簡単に探し出すことができる。

 視聴者の立場から言うと、いつでも見たいニュースだけを見られるという意味で、利便性が大変増した(テレビの最大の欠点は、見たい番組が放映されるまで待っていなければならないことである)。

 もちろん、日本にいながらアメリカのテレビ番組が見られるという点でも画期的だ。オリンピック報道に関しては、第38回で述べたように国別放映権の問題があって、日本でビデオを見ることができなかったが、一般のニュースについては、もちろんそうした制約はない。

 日本国内のニュースについては日本のメディアの報道に頼らざるをえないが、国際ニュースだとその必要もない。「新聞に株式欄は必要ない」と前回述べたが、それだけでなく、「国際ニュース欄も必要ない」ということになる。

 いまや残っている障壁は「言葉の壁」だけだ。ただし、それは逆に捉えれば、英語の勉強に最適ということでもある。海外勤務、外国出張の予定がある人、あるいはTOEICなどの英語試験を受けなければならないビジネスパーソンにとって、ニュースに接しながら英語の勉強をできる理想的な道具が、いまや無料で簡単に使えるようになったわけだ。

 ところで、以上で述べたのは、アメリカのことである。では、日本のテレビはどのような状態か? NHKのサイトを開いても、動画は、主要ニュースと番組紹介のものがいくつかあるだけだ(もしかしたら、人目につかぬよう、サイトのどこかに隠されているのかもしれないが、私には探し出せなかった)。日米の差は、絶望的なレベルに広がっている。日本のジャーナリストがウェブに対して危機感を持たないのも、当然のことだ。

◆ネットへの移行は 新聞にとっては大問題
 テレビはもともと無料のメディアだから、インターネットへの移行は、利便性と可能性の増大以外の何物でもない。視聴者にとってのみならず、配信者にとっても歓迎すべき変化だろう(それにもかかわらず日本のテレビがインターネットに移行しないのは、放送法上の制約があるためかもしれないが、不思議な現象である)。

 しかし新聞は有料のメディアだから、媒体が紙からインターネットに移行することは、ビジネスモデル上の本質的な大変化を意味する。

 そして、その移行は、急速に進行している。前回述べた数字が、何よりの証拠だ。人々は(とくに若い世代は)、新聞を購読するのでなく、Googleニュースのようなサイトでニュースをチェックするようになってきているのだ

 しばしば「若者の活字離れ」と言われるが、必ずしもそうした現象が起きているわけではない。新聞は読まれている。ただ、紙ではなく、ウェブで読まれているのだ。読者にとっては、紙を持ち歩いたり処分したりする必要がなくなるわけだから、ウェブの新聞は大変便利なものだ。

 したがって、問題は活字離れではなく、新聞がタダになったことだ。その条件の下でどのようなビジネスモデルを確立するかが問われている。しかし、日本の大メディアの内部にいる人たちは、そもそもそうした事態が進行していることさえ知らないようだ。

 たとえば、再販制(再販売価格維持制度)がいまだに残っているのも、考えてみれば不思議なことだ。これはメディアが有料であることをそもそもの前提とした制度だが、その大前提が崩れようとしている。自由主義経済のなかで再販制のような競争制限策にすがりつくこと自体が時代遅れだったのだが、制度の大前提が消滅しても、なお制度が残っている。日本の新聞は、2周遅れの世界に生きていると考えざるをえない。

 前回述べたように、新聞の株式欄にはもはや何の効用も見出せないので、私は新聞を読むに先立って捨てることにしている。これをやっているうちに、その前後のページも捨てられることに気がついた。捨ててしまうと、新聞は軽くなって扱いやすくなる。

 紙面構成上このような読み方ができない新聞も存在するが、それについても対処法を思いついた。それは、紙面を切り離して1ページずつにしてしまうことだ。そして必要がないページを捨てる。

 こうした読み方をして「新聞の読み方を効率化できた」と思っていたのだが、あるとき、「何と馬鹿げたことだろう」と気づいた。多すぎるページ数を減らして「効率的」と思うくらいなら、最初から紙の新聞の購読を止めにすればよいのだ。新聞購読を続けているのは、単なる惰性に過ぎない。

 購読をやめても、ニュースから切り離されてしまうわけではない。インターネットでGoogleニュースのページをチェックしていれば、世の中から遅れることはない。事実それこそが、若い世代が行なっていることだ。私も惰性に別れをつげ、彼らの行動様式に学ばなければならないのかもしれない。

URL:http://diamond.jp/series/noguchi/10040/
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